【供養】形見分けの方法・マナーと法律上の注意点
更新日:2022年10月4日

目次
1. はじめに
身近な人が亡くなった時に形見分けを受けたり、あるいは、遺族として形見分けをしたりしたことはありますか。
形見とは、亡くなった方の思い出の品のことで、故人が生前に愛用していた品を、親族や親しい知人で分けることを形見分けといいます。
「形見分け」は葬儀の後でもできる故人への供養の1つで、四十九日を済ませた頃に行われます。その際に大切なのは、形見をやみくもに配ったり、欲しがったりしないことです。故人の気持ちを第一に考えて行わなければなりません。
また、頻繁に機会のあることではないので、やり方や時期、マナーなどが曖昧になりがちで、相続や贈与の法律的なトラブルにもなりがちです。
そこで、この記事では、形見分け前に知っておくべき知識やトラブルを回避するためのポイントについてについて、わかりやすくお伝えします。
2. 形見分けとは
2-1. 形見分けとは
形見分けとは、故人の生前に愛用していた品物や故人との思い出の品(形見)を、関係の深い親族・近親者や親交の深かった人などに贈ることです。葬儀に関わる慣習の一つです。
ただし、「形見分け」はやみくもに品物を贈ることではありません。形見を受け取った方が、形見を通して故人を偲ぶことで、故人の供養になります。形見は残された側にとって心の拠り所である場合もありますので大切に扱いましょう。
形見分けにはいくつかルールがあります。行う時期がだいたい決まっており、贈る品の選定にも注意が必要です。遺品によってはトラブルの原因となりますから、知識を得てから形見分けをするべきです。
2-2. 起源と目的
起源
そもそも形見とは、品物を見るだけで故人が偲ばれる、または故人の姿形が思い浮かんでくるようなものなので、故人の「形見」というわけです。そして、その品を分け合うことから「形見分け」と呼ばれるのです。基本的には故人の愛着が強く、大切にされていたものが「形見分け」されます。
形見分けは地方によっては「袖分け」「裾わけ」などと呼ばれるところもあります。これは昔、衣類を形見とするのが一般的だったためといわれています。
ですから、古来には形見と言えば着物を意味していました。現代では衣類やアクセサリー類など様々な遺品が形見分けの対象になっています。
また、日本では、身につけていたものには魂がこもっているという考え方があり、その考え方が形見分けとして慣習化し、今に受け継がれている、という説もあります。
さらに、形見分けは、仏教を開いたお釈迦様が、弟子に自分の遺品を渡したという言い伝えから始まったとの説もあります。
目的
親しい人が遺品を受け継ぐことで、故人との思い出を共有できるようにするのが形見分けの目的です。贈られた人がその品物を使うことで、故人を忘れることなく、故人を偲ぶことができれば、故人は喜んでくれるに違いありません。故人を供養する一つのかたちと言われるのはそのためです。
2-3. 形見分けはしなくちゃいけないの?
形見分けは、義務ではありませんし、絶対にしなければならないものでもありません。
ただ、古くから伝わる習慣のため、年配者になるほど「形見分けは当たり前」と考える人も多いものです。逆に、若い年代の場合は「もらっても困る」と感じる人も少なくはありません。考え方や状況はさまざまなので、ケースバイケースで対応していくことをおすすめします。
残された家族や親族の負担が大きいのならば、形見分けを「しない」という選択もありますが、故人を供養するためにも、行うことをおすすめします。
2-4. 遺品の整理の仕方は?
思い入れのあるものを扱うことの多い形見分けは単なる遺品整理とは異なります。
一般的に形見分けは忌明け後に行います。遺品の整理は、形見分けを考えて少しずつ行っていったらよいでしょう。高価な美術品などは、相続税の対象になりますから形見分けの対象からは外します。相続税のことは後で詳しく解説します。
そのほか故人の日記や住所録、手帳や手紙などは、年賀欠礼状を出すときなどの資料になりますから、しばらくは保存しておくようにします。
3. 遺品整理、財産分割、形見分け
3-1. 遺品整理、遺産分割、形見分けとの違い
遺品整理、遺産分割、形見分けはいずれも、相続人が故人の遺品を扱う作業ですが、これら3つは作業内容や目的がまったく違うものです。基本的な順番も決まっていますので、3つの違いを実際の手順に沿ってお伝えし確認しておきます。
遺品整理
故人の遺品に対して、最初に行うのが遺品整理です。 遺品整理とは故人の遺した品物や家財などを整理することです。 遺品を必要・不要で仕分けして、不要な物は捨てるか買い取り処分し、必要な物は保管します。
保管されたもののうち、資産価値のある遺品は相続財産として扱われます。遺産分割の際には全ての相続財産を明らかする必要があるため、遺品整理は遺産分割に間に合わなければなりません。
遺産分割
遺産相続とは、資産的価値のあるものを故人の血縁者が相続することです。
このため、順序としてはまず遺品整理を行い、次に資産価値の高い遺品を「遺産分割」します。
遺産分割は、相続人が複数いる場合に、誰がどのぐらいの割合で相続財産を受け継ぐか決定することです。 相続人全員で協議し、遺産分割協議書を作成します。
一般的に、50,000円を超える遺品は、相続税の対象です。貴金属などの価値あるものは、鑑定後の換価金額も合わせて、遺産分割協議書に記載せねばなりません。
遺産というと不動産や現金が思い浮かびやすいかもしれませんが、宝石や着物、家財道具など資産価値があるものも「家庭用動産」として遺産に含まれます。50,000円を超える遺品は相続税の申告時に個別計上する必要があり、50,000円以下の物でも一括計上として申告しなければなりません。
貴金属、絵画、骨董品など資産価値あるものは、鑑定後の換価金額も合わせて、遺産分割協議書に記載します。 故人の思い入れのある物であっても、資産価値がある場合は遺産として扱うため、相続人全員による合意がとれないと形見分けの品物にすることはできません。
また、相続手続きが終わった後に出費がかさむ事態が生じた場合、遺産分配に関する不満が出るケースもありますので、「遺産分割」は慎重に行います。
遺産分割についての詳細はこちらの記事で紹介しています。あわせてご覧ください。
形見分け
故人の遺したすべての品物を、残すものと処分するもの、捨てるものに分ける「遺品整理」を行った後に、「遺産分割」をして残った、資産価値が低いけれど思い出のある遺品を、故人と縁の深い人に贈って故人の思い出を共有するこのが「形見分け」です。
形見分けは、共同相続人の合意により、共有財産の中から故人の思い出の品を、故人と縁のあった方に贈る行為です。 相続人が行う作業であるため、相続人の配偶者や友人などは形見分けの仕分け作業に参加する立場ではありません。
形見分けは、基本的に資産的価値のないものを扱います。形見を受け取る人も血縁者かどうかは関係なく「故人と親しかったかどうか」が重要です。ですから、「遺産分割」と「形見分け」は全く別物といえます。
遺品整理、遺産分割、形見分けのまとめ
形見分けは、故人の遺産分割が終わり価値あるものが残っていない状態でおこなう
高価なものや価値のあるものは「遺産」として財産分割の対象になるので、形見に含めない
相続人の配偶者や友人などは形見分けの仕分けに参加する立場にない
3-2. 法律問題
相続税・贈与税の発生
形見分けと相続についての注意点を、いくつかのポイントに絞って解説しましょう。
そもそも、遺品は故人の財産に当たりますので、原則としてすべて相続人に相続されます。
遺品は資産価値が50,000円以上あると相続税の対象となります。価値がそれ以下のものが、形見分けの品になります。
50,000円以上の価値のあるものを形見分けの品物としてしまった場合、相続税の対象であるばかりでなく、受け取った側も贈与税の対象にもなることがあります。
つまり、高価なものを形見分けすると、相続税や贈与税が発生することがあるということです。
形見分けが思わぬトラブルを招かないように、遺産相続と形見分けははっきりと区別しておこなうことが重要です。
相続放棄したければ、形見分けはしない
故人に負の遺産があった場合などは、遺産放棄することができます。
相続放棄を希望する人が形見分けのために遺品整理をおこなうと「故人の財産に手をつけた」として、遺産放棄が認められなくなる可能性があります。
遺産放棄したい人は、基本的に形見分けにも関わらないようにします。
遺産相続・遺産分割についての詳細はこちらの記事で紹介しています。あわせてご覧ください。
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4. 形見分けを始める時期
4-1. 形見分けはいつ行う?
形見分けは、さまざまな品を整理したり処分したりする作業です。故人との関わりが深ければ、遺品を見るのが辛くなるかもしれません。
遺産相続と異なり、形見分けは急ぐ理由や義務がありませんし、故人の残したものにきちんと向き合えるようになってから取り組む方が、整理する側としては気が楽です。日を置いて形見分けに取り組みましょう。
形見分けを行う時期に明確なルールはありませんが、宗教によって時期についての目安あるようです。 一般的に、仏教では四十九日法要等で親戚縁者が集まった時に行われることが多いようです。
日本の代表的な宗教ごとに、形見分けのタイミングのめやすをご紹介します。
4-2. 仏教
忌中は故人を偲ぶ意識が強い時期であるため、形見分けはしない方がよいとされています。
そこで形見分けは、「忌明け」と呼ばれる四十九日法要の後に行うのが一般的です。忌明けは故人が仏様のもとへ向かう日であるため、お見送りとして形見分けを行います。
法要を営んだあと、遺品を贈る人たちを自宅に招いて行うか、改めて先方へ持参します。
4-3. 神道
「神式」の場合は50日経過後に形見分けを行うことが一般的です。仏式同様、忌明け後に形見分けをします。
神道ならば「死の穢れが残る期間」です。この間は、故人のために祈りを捧げて慎ましく過ごすのがよいとされており、形見分けには適していないとされます。
4-4. キリスト教
キリスト教の場合は、1ヶ月命日のミサで行われることが多いようです。
そもそもキリスト教には形見分けの習慣がないのですが、亡くなって1カ月目にカトリックでは「追悼ミサ」、プロテスタントでは「召天記念日」の追悼が行われるので、日本では死後1カ月後頃に形見分けを行う方が多いようです。
4-5. 時期にこだわらない考えも
忌明けを待つことが難しい場合は、過去の慣例にとらわれず、親族や自身の都合を優先してもよいと考える人も増えています。
近年では「近親者が一同に介すのが難しい」などの理由から、忌明けを待たず、葬儀後すぐに形見分けすることも珍しくはありません。
また、最近は、形見分けに自分の意向を反映できるというメリットから生前に形見分けをする人もいるようです。
5. 形見分けの方法
5-1. 形見分けの一般的な方法
形見分けは、故人と親交のあった人に身近に置いて思い出にしていただくために、遺品を贈るものです。ですから、ほんとうに喜んでくれる方に贈らなければ意味がありません。受け取る人の身になって品を選びます。交友のありかた、先方の年齢、好みなどを考えてふさわしい品を贈るようにします。
また、形見分けには「希望する方に好きなものを選んでもらう」という方法もあります。これは、形見分けのミスマッチが起こりにくい方法です。形見を希望するかどうかを尋ね、希望する人には形見分けする日時をお知らせします。形見分けの際は、家族や親戚、さらには故人と生前交流の深かった方々に声をかけましょう。
品物としては、衣類、装身具、家具、身辺の小物類などが一般的です。
5-2. 形見分けは現金でもいい?
本来、形見分けでは故人愛用の物品を分け合うものですが、人に渡せるようなものが無いことがあります。
「形見分けは現金で贈りたい」と故人が希望する場合もあるでしょう。
また、遺品を無駄にしないという意味もある形見分けですが、物品を贈られても迷惑になるケースも少なくありません。
そこで、形見分けの主旨から外れてしまいますが、「形見分けは現金で贈りたい」と故人が希望する場合もあります。
そういったケースでは、物品の代わりに現金を渡してもよいといわれています。
ただし、お金は形見分けの範囲外とみなされやすく、その後、思わぬ債務が発覚した場合にも相続放棄できなくなるおそれがありますので、注意が必要です。
何らかの事情があってどうしてもお金を渡したいお礼を指したい、というのであれば故人のお金ではなく、自分のお金を渡した方が無難です。または、形見分けではなく別の方法を検討するとよいでしょう。
5-3. 形見分けでの現金の送り方
形見分けで現金を贈る時には無地の白い封筒に現金を入れ、受け取っていただきたいという気持ちを一言添えてお渡ししましょう。
「故人の希望により、このような形見分けとさせていただきました。お受け取りいただけたら幸いです」「形見分けできる品物がないため、こちらをお受け取りいただけると幸いです。」等が適切な表現です。
相手が受け取りを辞退した場合は、無理せずに生前のご厚意に感謝する気持ちを伝えます。 また、郵送ではなく手渡しの方が相手が断る選択がしやすくなります。
現金での形見分けに抵抗があるのならば、そのお金を使って故人を偲ぶことができる物や、形として残る品物を購入に変えることもありです。
5-4. 相続人の合意
現金で形見分けをする前には相続人の同意が必要です。
故人が残した現金は基本的に相続人の財産とみなされるので、現金での形見分けをする際は遺産分割が済んでいる必要があります。相続人以外に現金を形見分けするときには、相続人と受け手の同意だけで完了です。
相続人の中で現金での形見分けをするときには、その他の遺品の価値から資産価値を出して、贈与税・相続税の金額を考慮して、税金対策をすべきです。
5-5. 現金の贈り方
現金を形見分けとするときは、マナーや金額に注意を払って行いましょう。
形見分けは故人の遺品を形見として贈る行為なので、現金では本来の目的から外れてしまいます。
とは言っても、故人が希望していた場合、形見分けできる遺品はないがお礼をしたいという場合など、現金を形見分けとして贈りたいと思う方は注意事項を理解した上で現金での形見分けも失礼ではなくなります。
現金を形見分けで送る時には相続税・贈与税にかからない金額に抑えましょう。少額に留めると受け取る側としても精神的負担が減ります。
5-6. 形見分けの対象者は?
形見分けを行う範囲にについて、相続とは異なりルールはありません。通常は、故人の近親者や、故人と特に親しかった人が対象です。
形見分けは、先述のとおり、いつでも故人をしのぶことができるように行われるものですから、そのような気持ちを持っている人であれば、対象となると考えて差し支えありません。
配偶者や子、以外に孫、嫁(息子の妻)、友人でも構わないわけです。
ただし、先ほど述べたように、法的には故人が所有していた物品はすべて遺産分割の対象となるため、厳密には形見分けには法定相続人全員の同意が必要です。自分は故人との親しかったからと言って、近親者の反対を押し切って形見を持っていくようなことは認められません。
法定相続人とは、民法の定めに従って相続人となる人のことで、故人に配偶者と子がいれば、法定相続人となります
また、相続人以外の人が形見分けを受けた場合は、贈与税の対象となり、年間110万円を超える価額の贈与には、贈与税がかかります。
故人と親しかった人が、親族に遠慮して言いだせず、本当は思い出の品を手元に置いておきたかったと、後から聞くことになることもあるようです。遺品整理前に、故人の知人、友人に形見分けの希望を尋ねておくのもよいでしょう。また、故人と親しかった人は、遺族に、故人との思い出の品などについて、それとなく伝えておくとよいでしょう。
6. 形見分けの注意点
6-1. 形見分けと遺産相続
形見分けの品を選ぶ際は必ず、資産価値の有無に注意しなければなりません。 資産価値の高い物は遺産分割で相続人が相続するのが原則ですから、基本的に高額な遺品は形見分けの対象から外します。形見分けで高額な遺品を授受したことで、税金問題や相続人間のトラブルが起きるリスクもあるため、遺産相続と形見分けははっきりと区別しておこなうことがなによりも重要です。
税金に注意
高額な遺品を形見分けすると、相続財産と見なされ相続税や贈与税の対象になります。 そのため、相続人が高額な遺品を形見分けとして受け取ると、相続税が課税されます。
また、相続人以外の方が高額な遺品を形見分けで受け取った場合は、贈与税の課税対象になる場合があります。 贈与税についてまったく考えずに授受を行ってしまうと、税務署への申告が漏れて脱税扱いになる危険があります。
美術品や宝石など高価な遺品を形見分けしたい場合は、受け取る側の負担にならないように、贈る前に必ず相手に承諾を得ておくことです。
他の相続人の同意を得る
遺品は基本的に相続財産であるため、相続人全員の共有物です。 遺品を含めた故人の財産をどう分配するかは、遺産分割協議で相続人全員が話し合うべきもので、協議の結果は遺産分割協議書という書類に残す必要があります。
遺産分割協議の前に勝手に形見分けをすると、他の相続人とのトラブルが起こり得ます。 形見分けは、遺産分割協議後に、他の相続人の同意を得た上で行います。
相続放棄できなくなる場合も
故人に借金があった場合や、他の相続人と接触するのが嫌な場合などには、相続放棄を希望する相続人もいます。
しかし、形見分けで高額な遺品を受け取ると、「相続財産を受け取った」として相続放棄できなくなる可能性があります。 一般的なメガネや文具など、故人を偲ぶための資産価値の低い遺品を形見分けで受け取った場合は、通常の形見分けとみなされるので相続放棄に影響しません。しかし高価な宝石や新品同様の高価な衣類などは、一定の資産価値があるため通常の形見分けの範囲を超えてしまい、相続とみなされる恐れがあります。
相続放棄を希望する方は、形見分けを受ける前に弁護士、司法書士など専門家に確認することをおすすめします。
遺産相続・遺産分割についての詳細はこちらの記事で紹介しています。あわせてご覧ください。
6-2. 形見分けの対象となる遺品
形見分けの対象となる遺品は、**法定相続人全員が形見分けの対象とすることに同意した物**に限定しておくべきです。
通常は、形見分けは、金銭的価値のほとんどないような物に限定し、財産価値のあるものは遺産分割の対象としますが、法定相続人全員の同意があれば、金銭的価値があるものを遺産分割協議前に形見分けしても構いません。
6-3. 形見分けしない方がいい遺品
形見分けに適さない品物は、汚れた物や壊れた物、受け取る方の好みに合わない物、高額過ぎる物です。 受け手に気を使わせますし、形見分けの品物に50,000円を超える価値があるものは「相続税」の対象になります。相続税の対象となる遺品は遺産分割協議書に記載をする必要が発生します。
また、日記・手紙・手帳など故人の執筆物は形見分けの対象とせず保管することをおすすめします。故人の遺志や人間関係、遺産情報などが読み取れる場合もあるため、後々になって必要となるケースに備えて死後数年は保管したほうが安心です。
6-4. 形見分けの対象としてよい目安の金額は?
形見分けは、先述のとおり遺品の金額よりも法定相続人全員の同意の有無の方がより重要なので、目安となる金額はないと思ってください。
なぜなら、形見分けという名目であれ、遺産分割という名目であれ、**故人の所有する財産を相続人が取得した場合は、相続税の対象となる**からです。
例えば、宝石や指輪等のアクセサリーや着物等の衣類は、故人が身に付けていた(身にまとっていた)イメージが脳裏に焼き付いていますから形見としてのニーズが高いものです。
加えてこれらの品は金銭的価値が高い場合もあるため、形見分けの対象とするか、遺産分割の対象とするかでトラブルになりがちです。
もし、形見分けすることに反対する法定相続人がいる場合は、形見分けとせず遺産分割の対象とすべきです。
相続財産を処分すると、相続を承認したとみなされて、相続放棄ができなくなりますが、財産的価値のないものについての形見分けの範囲であれば、形見分け後に相続放棄をすることも可能ということは、先に述べた通りです。
6-5. 嫁や孫に形見分けをする贈るときの注意点
故人の世話をしていた嫁(息子の嫁)や孫、孫の嫁にまで形見分けをすることもあります。 故人からの希望に沿って遺品を渡すことで供養にもつながりますし、分散させた方が遺品を大切にしてくれるからです。
ただし、形見分けをするときには相続人の同意が必要です。
故人の意向があったとしても法的には、故人が所有していた物品はすべて遺産分割の対象となり法定相続人のものとみなされるからです。相続人として認められていない嫁や孫、孫の嫁に渡す時には、のちのトラブルを防ぐために、相続人の同意を得て形見分けをしましょう。
6-6. 高級品・高額品は控える
高価な物品や現金を形見分けとする場合は、後になってトラブルになることもあるため特に注意が必要です。
何度も述べているとおり高級品・高額品や現金は相続財産という扱いになり、贈与税が発生することがあるからです。また、形見の品の価値が大きく異なる場合、受け取り手に不満が出る可能性もあるため、価値がありそうなものは避けた方が無難です。
もちろん、家や土地などは論外です。
6-7. 目上の人へは形見分けをしない
そもそも形見分けは、親のものを子に、兄姉のものを弟妹や甥・姪、あるいは後輩にというのが本来の姿ですから、故人より目上の人に形見分けを差し上げるものはマナー違反とされています。
ただし、上下関係や年齢を気にしない人も多くなっている現在では、無礼を詫びる一言を添えて贈れば問題ないでしょう。もちろん、目上の人の側から形見分けの要望があれば、失礼になりません。
ただし、どんなに故人が希望していたとしても、もらう方が拒否するのであれば、無理強いはできません。相手にお伺いしてよい反応が見られなかった場合は、すんなりと引き下がる方がよいでしょう。
6-8. 形見分けの品は、受け取り手が喜ぶものを
形見分けは受け取る側が嬉しいと思えるものを贈ることが大切です。形見の品は選択が難しいこともあると思いますが、受け取る側に縁のあるものを選びます。
ここでは、一般的に贈られている品物の例を挙げてみましょう。
● 腕時計、鞄、バッグ、万年筆などの故人の愛用品
● 高価すぎないカメラや装飾品。
● 故人の面影を思い出す洋服や着物。
● 故人が趣味として収集していた本や絵画
● 囲碁や将棋、釣り具のなどの道具類。
時計や万年筆などメンテナンスが必要な品物は注意が必要です。電池やインクを入れて正常に動作するか確かめておきましょう。ただ、相手に強い思い入れがある場合は、相手と相談した上で渡すようにすれば問題ありません。

6-9. 遺品はきれいな状態にして包装せずに贈る
きれいな状態で
形見として大切にしてもらうのですから、遺品はきれいな状態にしておきたいものです。相手にお渡しする前に、汚れやほこりを払い見栄えをよくしておきましょう。
ひどく傷んだものや、壊れて使えない品物は先方から強い希望がないかぎり、贈るのを避けるべきです。贈られる人の好みに合っていない品物の形見分けも同じです。
衣類ならクリーニングに出しておきます。小物類などは、ほこりや汚れなどをきれいに取り除いておきます。
メガネやアクセサリー類などは身につける機会が多く、汚れている場合があります。きちんと手入れをしてから贈るようにしましょう。
包装しないで
形見分けはプレゼントではありませんので、そのまま品物を渡すのがマナーといわれています。箱に入れたりラッピングするなどの包装は不要です。もし、包装する場合は、半紙のような白い紙に包んで、仏式なら「遺品」、神式なら「偲ぶ草」と表書きして手渡しします。
また、箱入りの装身具や美術品、たとう紙に包まれた和服などは、包装のまま前記の要領で手渡します。
基本的に好ましいのは手渡しですが、遠方で手渡しできない場合は、破損しないように最低限の包装を行って宅配便などで送っても問題ありません。
嵩張るもの
また、嵩張る物を形見分けするともらった方が困ることがあるので、着物等の遺品をリフォーム店等に持ち込み、小物入れ等に加工して形見分けすることもあります。
そうすると、同じ物を複数の人に形見分けできるので、不公平も生じません。
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7. 形見分けで生じやすいトラブル
形見分けの主なトラブル事例にはいくつかあります。
以下、それぞれのトラブルの事例について見ていきましょう
7-1. 故人の遺志が反映されない
形見分けでもっとも注意したいことが、相続トラブルです。特に、形見分けはお金が絡むトラブルが発生しがちです。
形見分けでは、故人の遺志が何よりも尊重されなければいけません。本人が生前に遺産の扱いに関する希望を明記していた場合は、円滑に遺産分割や形見分けを行うことができます。そのため、形見分けはまず遺書や遺言に従って行います。
故人が生前に形見分けについてきちんと考えていた場合、資産価値の高い品物は遺言書に、その他の形見の送り先はエンディングノートに書き遺されている場合が多いものです。
遺言書やエンディングノートなどで形見の行き先や処分方法が指定されていた場合は、故人の遺志を尊重しましょう。
ただし、エンディングノートに法的効力はないので、遺言書や法律を優先し、その次にエンディングノートの内容を反映していきます。故人の遺言がなかった場合は、相続人同士の遺品の取り合いに転じるケースも見られます。
しかし、故人が生前にした「口約束」が、何らの書面に残らない遺言だった場合には「言った」「言わない」の争いになりやすいため注意が必要です。
話し合いで解決できない場合は調停を申し立て、それでもまとまらなければ家庭裁判所の遺産分割審判に進まざるを得ません。
そうなると、長期にわたり遺産分割に悩まされ、相続人同士の仲も修復不可能に陥る可能性が高くなります。
7-2. 相続放棄を希望している場合
何らかの事情で、相続放棄を希望している方が形見分けを受ける場合は注意が必要であることはすでに述べましたが、もう一度ここで確認しておきます。
故人が愛用していた文具やアクセサリーなどで、高価でないものであれば形見分けとして受け取っても相続放棄に影響はありません。
しかし、5万円を超える品や現金を受け取った場合は相続を承認したとみなされ、相続放棄できなくなることがあります。
たとえば、相続人が客観的にみて形見分けを超える範囲と量の遺品を持ち帰ったようなときです。
相続放棄をする可能性がある場合(故人が債務超過の場合等)は、経済的に少しでも価値のある形見を受け取ることは控えておいた方がよいでしょう。
さらに相続放棄を希望している方は、形見分けを受ける前に弁護士や司法書士など専門家に相談したほうが確実です。
既に、相続放棄をした後でも同様に相続放棄の効果が否定されてしまいますので注意しましょう。
7-3. 「誰が何をもらうのか」で揉める
高額なもの
特に宝石や貴金属など金銭的な価値がある形見は注意が必要です。
故人が趣味で集めていたコレクション品の中にはコレクターでないと価値がわかりにくいものがあります。例えば、時計、万年筆、骨董品、コインなどです。
これらは専門家に鑑定依頼すると良いでしょう。美術品や絵画なども含めて、価値の高い場合